K-TUNES RACING

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2022.8.27-28 鈴鹿サーキットメカトラブルでリタイヤに終わったものの
攻めのレース戦略にチーム力の進化が見えた

期待感に包まれた緊張感。鈴鹿サーキットゆえの特別な感覚が存在していた。2018年の初優勝をはじめ、翌年の2年連続優勝と、K-tunes Racingにとって鈴鹿サーキットは、相性の良いサーキットだったから当然といえば当然かもしれない。

今回の第5戦は450kmの長距離に設定されており、燃費とタイヤの負担が大きいLEXUS RC F GT3にとって、いかに鈴鹿とはいえ有利な状況ではない。それでも期待感があったのは、いくつもの要素が進化を遂げていたからだ。
昨年から一発の速さを見せていたダンロップタイヤは、今シーズンになって耐久性でも性能向上があった。前戦富士もまた450kmの距離だったが、走行距離が長くなっても性能低下が少なく、ラップタイムは周囲のライバルに対して遜色なかった。
また課題だったピット作業のロスタイムを削減するため、ひとつひとつ見直しした。450kmレースでは2度の給油が義務づけられていて、さらにタイヤ交換も第2戦富士、第4戦富士ともに2度実施している。ドライバー交代まで含めた、いわゆるフルサービスのピット作業なので、どうしても時間がかかる。それだけにひとつひとつの作業をシェイプアップし、ロスタイムを減らすことは重要だった。
そうした効果もあって、第4戦富士では苦手とするコースにも関わらず5位という結果を残すことができた。その流れを鈴鹿に持ち込めば、自然と結果がついてくるハズだった。

しかし土曜日の午前中の練習走行、走り出したドライバーの表情は良くなかった。何かが違う、といった表情で実際にタイムも芳しいものではなかった。第3戦鈴鹿では予選2位を獲得するなど、鈴鹿では常に速さを出してきた。
真夏というのに意外なほど低い気温、鈴鹿に合わせてきたマシンセッティング、サーキットに持ち込んだタイヤのスペックの影響。さまざまな要素がチェックされ、予選に向けて修正を加えていく。戦う、というよりも、それ以前にまずは戦える状態にする、といった段階に、96号車はあった。
鈴鹿サーキットは横方向にも長い時間Gがかかるコーナーがいくつもある、タイヤに厳しいコースだ。しかも夏の暑いレースで、さらに長距離ということなので、今回のレースには耐久性の高いタイヤが持ち込まれた。それは当然、路面温度が高くても性能を維持する性格で、逆にいえば路面温度が低いと性能を発揮できない。30℃に届かない真夏としては温度が低い鈴鹿サーキットで、そのハードなタイヤで挑まなければならなかった。
それでもここまで積み上げてきたデータが、より良い方向へと導いてくれることは間違いない。チームは残された短い時間の中で、予選で戦えるマシンに仕立てるため、最大限の努力をしていった。

Q1を突破するのは難しいかもしれない。そんな空気が予選が始まる前のチームには流れていた。予選Q1を担当するのは高木真一選手もまた、難しそうだ、という顔をヘルメットで隠し、アタックへと向かった。
タイヤの性能をキッチリと発揮させるためには、タイヤを温めてグリップ性能を出す必要がある。ただし鈴鹿サーキットは国内最長の約5.8kmという距離のため、しっかりと合わせないとタイヤのグリップ力が最大のところを活かしきれない。高木真一選手はタイヤを温めることに専念しながら走行を続け、3周目にタイムアタックに入った。そのタイムは1分58秒072、タイミングモニターの2番目に表示された。
そのタイムを超えるドライバーは出ず、2位で予選Q2進出を決めた。
午前中の不調がまるでウソのような走りだった。第3戦鈴鹿でのフロントローからのスタートを思い起こさせるに十分なタイムだった。
しかし予選Q2、新田守男選手は苦しむことになった。時刻は午後4時を過ぎ、これはいつものスケジュールよりも1時間ほど遅く、気温はさらに下がってしまっていたからだ。さらにアタックラップで、ウォームアップのためにゆっくり走っているマシンに引っかかってしまったこともあり、1分58秒593というタイムに終わった。結果は12位だった。
希望があるとすれば、翌日、決勝レース当日の天気予報は快晴で気温も30℃を超えるということ。本来想定していた気温になることは、マシンが性能を発揮する環境が整うことなのだ。

決勝レースに向けて、K-tunes Racingは再びマシンのセットアップなどの見直しを始め、450kmの長距離で結果を残すための検討を行った。
2度の給油が求められることで、レース戦略は多くのバリエーションが考えられる。普通に考えると3分の1ずつに区切り、2度のピット作業を行うのがバランスがいい。実際に前戦第4戦富士では、K-tunes Racingはそうしたレース戦略を採用している。
トリッキーな戦略としては、給油1回分を少量の給油だけ実施することで義務を消化する、スプラッシュ給油という戦略がある。この場合、実質的には450kmを2分割する、という形になる。多くの場合スタート直後、2周目に行うのが一般的で、ロスタイムが少なくなるだけでなく、スタート直後の車群の中から離れて、単独走行が可能になる。
ただ、そうした作戦を取れるのは225km以上走れる燃費が必要になり、RC F GT3では難しい。軽量なGT300マシン、あるいはGT300MCマシンなら可能性がある。
1人のドライバーの走行可能距離はレースの3分の2以下、となっているため、それもレース戦略の中に組み込まなければならない。果たしてK-tunes Racingが選択したのは、新田守男選手をスタートドライバーとしレース距離の3分の1を走り切って、高木真一選手へと交代。2度目のピット作業ではドライバー交代はしない、というものだった。
これまで、こうした攻めたレース戦略は採用して来なかったが、今回実行できたのはタイヤの耐久性が見込めたことが大きい。

天気予報のように快晴というわけではなかったが、気温が上昇した中で決勝レースは行われた。新田守男選手はペースに苦しみ、上位争いをしているマシンよりも毎Lap1秒以上の遅れがあった。ただしスプラッシュ給油で2周目に2台がピット作業に入った他、10周以降になると早めにピットストップを消化するマシンも多く、タイム差が拡がっていくのとは対照的にポジションは上がっていった。15周目には10位だったが、トップとの差は30秒以上に拡がってしまっていた。すでにペースは悪化していたが、レース距離の3分の1を走りきらないとレース戦略が崩れてしまう。
20周目には6位となるのだが、トップとは45秒以上の差になっていた。そして23周目、当初の予定通りピットインし高木真一選手へとドライバー交代、燃料は満タンまで補給され、ニュータイヤに交換を終え、コースへと戻っていった。
コース上では24位となったが、ニュータイヤの威力もあり、トップ争いをしているマシンと同等のタイムで周回を続けていく。30周目に20位、35周目には18位、そして40周目には11位へと躍進。レースペースの低下はわずかだ。そして45周目には6位にポジションを戻したが、そのタイミングでセーフティカーとなった。
セーフティカーとなり、ピットロードがクローズとなる直前に上位の2台がピットへと滑り込むことに成功。その結果高木真一選手は4位というポジションで、セーフティカー解除を待つことに。すでにレースは3分の2近くになっており、スプラッシュ給油を実施したようなマシンは2回目のピット作業を終えていたため、実質的な順位ではないものの、表彰台に手が届きそうな位置に。
96号車としてはトップとの差がなくなったのはラッキーな要素だが、それよりもむしろ2度のピット作業を終えている後方のマシンとの差がなくなったのはアンラッキーだった。彼らのピット作業でのロスタイムが実質的にゼロになったからだ。
50周目に再スタートが切られると、ややペースが悪化してしまい、フレッシュなタイヤを装着して追いあげてきたマシンにオーバーテイクを許し、6位へとポジションダウン。そして56周目に2度目のピット作業へ。ドライバー交代はせず、タイヤ交換もせず、給油だけという最小限のロスタイムに抑えて、コースへと18位で復帰。K-tunes Racingのメカニックたちは、2度目のピットストップも完璧な作業でクリアした。

残り周回数は15周前後、ここから追いあげるか?? という流れだったのだが、58周目マシンから白煙が上がる。高木真一選手はマシンをスローダウンさせて、慎重にピットへと運んできた。
トラブルはトランスミッションで、何らかの原因でオーバーヒートしたもので、白煙はミッションオイルだった。再びコースへ戻ることは難しく、そのままリタイヤとなった。ただし周回数が70%を超えていたため、25位完走扱いという記録になった。
ダメージはトランスミッションだけで他に破損はなく、次戦、第6戦SUGOまでには改修可能だろう。
最終的にリタイヤすることにはなったものの、タイヤの耐久性やピット作業の進化によって、攻めのレース戦略を採ることができた。K-tunes Racingの進化が、形として現れたレースとなったのである。

コメント

  • 影山正彦チーム監督
    影山正彦 チーム監督

    「今週の我々のペースでは、2回目のピット作業を給油のみ、という作戦が一番可能性があったと思います。作戦通りに走りましたが、最後メカトラブルでリタイヤとなったのは残念でした。今回の鈴鹿は最初から苦しくて、結果に結びつけるためにはペースを1秒くらい上げなければ、勝負にならないですね。その実力を身につけなければ、いけないですね。」

  • 新田守男選手
    新田守男 選手

    「スタート直前に陽差しが強くなり温度も変わってしまったこともあって、序盤からペースが苦しかったですね。難しいコンディションになりました。それでも何とか予定通りに高木選手へ繋げることはできて、ペースも悪くなかったのは良かったですね。得意の鈴鹿なので、本当はしっかりとポイントが欲しかったですけど、残念ですね。」

  • 高木真一選手
    高木真一 選手

    「ペースも良くて、何度もオーバーテイクできましたし、クリアであれば2秒台半ばのタイムで走れたので、トップ10に食い込める状況だったと思います。タイヤは耐久性が高くて、2度目のピットで無交換でも問題なくて、最後まで走るとどうなったのか??、走りたかったですね。駆動系のトラブルでリタイヤになってしまいましたが、今後のレースに活かせるデータは得られたと思います。」

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