K-TUNES RACING

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2019.5.3-4 富士スピードウェイ雨に喜び雨に翻弄されたものの
トップと同等の速さに期待へ

今シーズン、K-tunes Racingはいつも新田守男選手が先にマシンに乗り、その後を受けて阪口晴南選手が走らせてきた。レースだけでなく、マシンの経験値も圧倒的に高いベテランが乗ってマシンのチェックとセッティングをし、その後に新人が乗り込む。常にそうだった。

しかし今回のレースでは違っていた。プラクティスで阪口晴南選手が先にクルマを走らせていたのだ。
「特別な意味はありませんよ。」影山正彦チーム監督のそのひと言が、阪口晴南選手のポジションを現していた。第1戦までの走りで、チームに認められていたのだ。もはや、阪口晴南選手を先に乗せて、マシンのチェックとセッティングするのに、特別な意味は必要なくなっていたのだ。
「新田選手と走らせ方も近いし、コメントも似ているから、コンビネーションも上手くいっていると思います。まだまだ勉強することは多いと思うけど、吸収するのも早いし、ね」
その流れのまま、予選Q1は阪口晴南選手が担った。タイヤの温まりが悪いのか、なかなかタイムアップできないまま、最後のアタックで何とか1分37秒479をマーク。ぎりぎり16位でのQ2進出を手にした。その予選Q2では新田守男選手が12位と、少しだけポジションを上げて見せた。

「タイトコーナーからの立ち上がりで、加速力の違いを見せつけられる」と、2人のドライバーは言う。ノンターボでトルクが小さいRC F GT3は、そういった差が出てしまう。その差を小さくする方法はいくつもあるだろうが、最大の効果を持つのは天気である。路面がウエットとなればタイヤのグリップレベルは低くなり、コーナーの立ち上がりで与えられるパワーは小さくなるからだ。

マシンがスターティンググリッドに並ぶ頃、大粒の雨が音を立てて降り始めた。ほとんどのマシンはレインタイヤへと交換していく。K-tunes Racingにとって、恵みの雨というべきか。ただし空はそれほど暗くはなかったので、降り続くイメージではなかった。
その雨を生かして、スタートドライバーの阪口晴南選手は大活躍を見せる。ドライコンディションでは太刀打ちできなかったはずのライバル達をオーバーテイクし、12位からスタートして、なんと4位にまでポジションを上げたのだ。
まだレースは序盤であるが、もう表彰台がすぐ目の前に見えていた。

もちろん雨が降ってレインタイヤに交換しただけでは、それほどのレース展開は不可能だったことだろう。雨の可能性を見越して、マシンはウエットを想定したセットアップが与えられていた。だからこそ、雨が降っても、その後に雨が上がっても、しっかりと競争力が持ち続けられたのだ。
速さもある。
2戦連続の上位入賞への期待が、チームの中にも拡がっていった。

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2019.5.3-4 富士スピードウェイ雨に喜び雨に翻弄されたものの
トップと同等の速さに期待へ

リスクから遠ざかろうと逃げていては、勝負からも逃げることになる。リスクを冒すことを避けていては、ライバルたちに対して優位な戦いができるはずはない。

レース序盤からオーバーテイクを繰り返し、4位にまでポジションを上げた阪口晴南選手だったが、それは当然マシン、とくにタイヤへの負担が大きいことが予想できた。実際にラップタイムは少し辛そうで、少しずつトップグループから離れていく流れが予想できた。
まだ誰もタイヤ交換していない。選択肢は、このままタイムを落としてもコースに残ってタイミングを待つか、あるいはタイムを落とすことを許容せず早めにタイヤ交換を済ませてしまうか、という2択である。そこに大きな要素となるのが、雨の降り方だ。雨が降り続けばレインタイヤでもう1スティントを走るのが順当だが、完全に雨が上がってしまえば路面は乾きレインタイヤではタイムは出せない。もちろん、その中間、雨が少しずつ弱くなるパターンも考えられる。

無難なのは、自分から動かない、という選択だ。つまり選択せずに他のチームの動向をみて、それから決めるというもの。ラップタイムは良く、500kmという長丁場ということもあり、焦らずにゆっくり追いかけることも十分に可能だ。
しかしK-tunes Racingは決断した。早めにピットインさせて、タイヤを新しいレインタイヤへと交換することにした。まだ雨が降り続く状況では、当然の選択だった。フレッシュなレインタイヤへと交換し、再びライバルたちを上回るペースを取り戻せば、彼らがピットインするまでに大きなアドバンテージが得られる。
攻めの戦略が選択されたのだ。
33周目に96号車はピットに帰ってきた。阪口晴南選手から新田守男選手へとドライバー交代が行われ、そしてタイヤ交換へと作業が進む。しかしここでトラブルが出てしまった。左フロントタイヤのホイールナットが締まらないのだ。メカニックは慌てて新しいナットを用意し装着、新田守男選手はスタートすることができたものの、大きなタイムロスとなってしまった。

だが、そのトラブルは序章に過ぎなかった。新田守男選手がコースインし、レースに復帰したが、その1コーナーでABSが誤作動してロック、ブレーキングできずにコースアウトしてしまう。クラッシュすることなくコースに復帰することはできたが、タイムロスが生まれた。23位まで、順位はドロップした。
それに続いたのは、とても大きな事態だった。ほどなくして雨は上がってしまったのだ。チームの想定よりもずっと早く雨が上がり、コースは少しずつ乾いていった。ライバルたちは次々とピットインし、スリックタイヤへと交換し始める。レインタイヤのままではラップタイムで大きな差がついてしまうのは明白。

41周目、チームは再びマシンをピットに戻し、スリックタイヤへ交換した。1回多くピットストップしたことになり、コースに戻るとトップからは2分以上の差が生まれ、周回遅れとなってしまった。
K-tunes Racingの攻めの戦略は、結果だけをみれば、失敗となった。最も不確定な要素である天気に、裏切られた形だ。もちろん、上手く決まっていれば、アドバンテージを得てトップを走っていた可能性もある。
しかし周回遅れであっても、ドライバーはしっかりと仕事をした。マシンの性能を引き出し、2人ともにトップグループと同等のラップタイムでレースを戦った。多くの場合、勝機がなくなったり、トップとの差が大きくなるとペースは低下してしまうものだが、そうではなかったのだ。阪口晴南選手は自らの経験値とデータを得るために手をゆるめることなく周回を続け、ベテランの意地というのではないだろうが新田守男選手はファステストラップを記録している。

決勝レースの結果は16位。トップグループとの差は少しずつ縮まっていったものの、周回遅れという大きな差を解消することはできなかった。
「レースラップが良くて、十分に戦えたレースだっただけに、悔しいね。表彰台に立つことはできたと思う。ただタイムが出ることは判ったので、次の鈴鹿の結果につなげます。」影山正彦チーム監督は、珍しく語気を強めて、そうコメントしてくれた。
次は、昨年優勝した思い出の鈴鹿。どんなレースが展開されるだろうか? 望むらくは臆することなく戦うK-tunes Racingの姿を目にしたい。

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